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媚(こ)びない生き方にビビットきた

何にもなくても大丈夫!

友達が読んだという『銀の夜』 角田光代著 を、何に気なしに読んでみました。そういえば、角田先生は読売新聞で『タラント』を連載していましたから、今時の作家さんのなのですね。

主人公の女性3人は中三の時に、遊び半分に応募したアマチュアバンドコンテストに合格しデビューします。この芸能活動が校則に触れ、退学処分となります。こうしたキラキラした思い出を抱えて成長した、30代半ばの3人の暮らしが本の主な内容です。

コンサート会場で手をあげる人

主人公の名前は、一児の母の麻友美、イラストレーターのちづる、手当たり次第に職業を代える伊都子。3人に共通した印象は、幼稚園から短大までの一貫教育の女子高に通う世間知らずのお嬢様が、そのまま大人になったということでしょうか?

特に面白い点

3人のキャラクターは、よく似ています。この本を読んでいると、一人の女性が3本の違う分岐点の道を、それぞれ歩んだ場合の人生について書かれているようです。

各々、自分のことをつぶやいていますが、その内容を大雑把にまとめると、精神的・経済的に自立していないことへの不安や苛立ちです。麻友美とちづるは夫を支えに、未婚の伊都子はやり手の翻訳家の母を支えにして暮らしています。

よく人生を対比をさせる小説にありがちなのは、子持ち、マザコン、バリバリのキャリアウーマンの3パターンです。ですがキャリアウーマン役は、伊都子の母になります。自立に程遠い3人の暮らしと、その葛藤がよく伝わってきました。

ただ、3人の葛藤は、誰もが持つ悩みとも思えます。改めて言葉にされると、「はて?私もそうかも?」と思ってしまいます。この共感がグイグイと、先を読み進める力なのです。これが角田先生の魅力なのでしょうかね。

芙美子(伊都子の母)は自身で語ってはおらず、悩みはわかりません。その性格と生活スタイルは、伊都子によって語られていきます。伊都子の分析で短所は『わがままで、自己中心的で、すべては自分の物差しではかり、他人を許容しない。見栄っ張りで底意地が悪く、いやなことがあるとすぐ根に持つ。。。。』で、長所は『強いこと』の一つです。

芙美子の悪い印象は、小説の後半まで続いていきます。

そして、読み終えた後に芙美子の行動が一つ一つ思い出され、媚びない生き方っていいねぇ~と思い直しました。ちょっぴり勇気を貰えました。

芙美子の生き方

以下は娘の伊都子が語る、芙美子のセリフです。翻訳家として成功を多く得てきた人ならではですね。

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「化粧をいっさいしないこと。化粧なんて媚だ。安売りの札を下げて歩いているようなものだ。そういう芙美子は、伊都子が子供のころから化粧気がなかった。男に何も期待しないこと。男に期待するなんて能無しのすることだ。」

3人の葛藤

「もしかしたら、私も・・・」と思わせる、3人の葛藤が読み手を惹きつけます。

ちづるの場合

ちづるの仕事は、イラストレーターとして、書籍の挿絵などの仕事をしているものの、その収入は一人で生活するには足りません。どこか、夫に経済的にも精神的にも頼り、独りで生きていくことへの漠然とした不安から逃れることが結婚生活の目的だったのです。

夫の浮気を知り、夫を見返すために自身の個展を開きます。芙美子が死に際に言った「だいじょうぶだから」という言葉を聞き、何にもなくても大丈夫なんだという自信を持つのです。

金銭的な不安や恐怖のない暮らしこそが、自分のあるべき姿と確信していたちづるでしたが、夫との離婚を決意します。一人暮らしを始める際、失うことを怖がらなくていい何かを、手に入れたと締めくくっています。自分への自信かな?

麻友美の場合

キラキラしたバンド時代が忘れられずに、バンドの再結成をちづると伊都子に申し出ますが、取り合ってもらえません。

娘のルナに自分の叶えられなかった夢を託して、ダンスなどのレッスンを受けさせます。おとなしい娘には無理で娘をアイドルにすることを諦めて、お受験の教室に通わせるのです。

娘は親の所有物ではないと伊都子に言われるものの、レッスンや教室通いはやめません。ルナを私立高に入学させるのも、今の幼稚園のママ友との折り合いが悪いためという、身勝手な理由です。

子供の頃の麻友美は、私立の女子高に通うには経済的に厳しい家庭で育ちました。両親がお金をかけるのは習い事や勉強に関することだけで、好きな洋服を好きなだけ買ってもらえることはありませんでした。女子高でお金がないために、友達付き合いが思うようにいかなかったのです。ここから、将来は何不自由なく欲しいものが手に入れられるような、大人になりたいと思うようになりました。

そして、たどり着いたのが何でも買える豊かな旦那と、結婚することだったのです。その選択肢に、疑問を感じている個所もありましたが、最終的にはこれでいいのだと割り切ってしまいました。

最終的に二人目の子供が生まれるという報告メールを、ちづると伊都子に送るところで締めくくられています。ちづるは、麻友美も何かを芙美子の死で何かを思ったと書いています。麻友美自身の言葉での心境は書かれていませんが、多分、ちづると似たり寄ったりの自信を得たのだと思います。

伊都子の場合

伊都子は、自分の母親を秩序だといっています。4年制大学を卒業してものの、定職に就かずに、母親の秘書や友達の雑貨屋の手伝い、ライター、海外へ滞在などをしながら暮らしていました。

母に指図されて暮らすことに毒づくものの、独りで生きる力はありません。結局は母に従わざるを得ない自分が、嫌でしょうがないのです。

最終的には、また、スペインへ旅立ってしまいます。

伊都子の場合も、麻友美と同じ最後に心境を語っていませんが、ちづると同じような自信を得たはずです。

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