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職務を明かせない公務員の行動を覗いてみた!

最大の武器は地味で目立たないこと

国際情勢は日に日に緊迫していくばかりで、昨今のニュースにため息が出ませんか?国や家族を守るためでしょうか、はたまた、利権を広げるため?自分の言い分を通すために国同士の紛争やテロのような犯罪は絶えません。戦争は言うまでもなくNOですが、このまま手をこまねいていていいわけはありません。

一般の人が目に触れることがないところで、国を守るために不審な動きの有無を監視し続けている組織があります。公安調査庁です。(ちなみに警察の公安とは異なります。)

日の丸と警察章

あまり耳にすることのない公安調査庁の行動の実態を、知ることができる本に出合いました。手嶋龍一著の『鳴かずのカッコウ』です。

狭き門の公安での業務

地味な公安をそのまま人間にしたような主人公 梶壮太は、誰からも顔を覚えられない空気のような存在です。公安内のあだ名は「ジミー」とつけられています。同僚の西海穂希(ほまれ)は対照的で、才女で花のある女性として描かれています。

現実、公安になるのはかなりの狭き門で、体力、頭脳、チャンスに恵まれた人だけが、抜擢されるという職種です。公安だけに絞った特別な試験はなく、まずは公務員試験と警察官試験に合格して、警察官になることから始まります。警察学校での訓練中は常に成績トップであること、現場に配属された後は品行方正、犯人の検挙率が高いなど厳しい条件をクリアした人が、公安部門へ配属になるのだそうです。

本の中で壮太は、”たまたま公務員試験を受けて配属されたところが公安だった”と語っています。自分の優秀な部分を理解できない壮太は、場違いな部署にいる感が拭えません。同僚の穂希のような華々しい活躍とは、段違いのようです。

エリート集団に身を置きながらエリート意識がなく、うだつの上がらない会社員のような気持ちのまま、難解な事件を一つ一つ紐解いていく奇妙な話です。のらりくらりと捜査を行い、スリリングとは程遠いけれど、実は公安の仕事はこうなのだと逆に確信できるのです。

機械も組織力も持たない

公安はぶっちゃけスパイ行為を行うところですが、身一つで行動する厳しい仕事です。

防衛省の情報部門のように最新鋭の電波傍受装置や大勢の要員はいません。外務省のように何千という海外要員を在外公館に張り付けることもできません。警察の警備・公安のように全国に膨大な数のアシもありません。

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警察であれば、初対面の相手に警察手帳を示して話を聞くことができますが、公安調査官は、身分を明かすことができません。時には大学の研究者や民間会社の調査員を装って、アポイントメントを取り付けて話を聞きに行く方法がとられるのです。

壮太は身分証をかざして捜査できないことから、公安調査員に必要な能力は人間力ではないかと言っています。「人間が好きやないと、この稼業は勤まらん」「自分はこの仕事はまったく向いていない」とぼやくのです。

行動はすべて機密のベールに包まれている

本の題に出てくるカッコウを、公安と重ねています。カッコウは、他の鳥の巣に卵を産み付け、他の鳥に卵を孵化させ育てさせる習性をもっています。卵の色や班紋(はんもん)までそっくりに産み付け、数合わせのために相手の卵を地面に叩き落とします。

公安の行動は秘密のベールに包まれていて、業績を挙げても逆に何も成果がなくても、誰にも気が付かれません。情報を提供してくれる情報源さえ、同じ部署内で共有されていないのです。もしかしたら、ノルマノルマで苦しんでいる会社員にとっては、羨ましいと思えるかもしれませんけどね。それは、カッコウが他の鳥の巣に卵を産み付けるのと変わらないのです。

親戚や友達にさえ職務を明かせないために、職業を聞かれたら”公務員”とぼやかさなければなりません。

壮太の業務遂行能力

壮太は公安調査官の仕事を向いていないと思いながらも、上司に励まされながら業務を遂行していきます。

「映像記憶(フォトグラフィックメモリ)」といって、見たものを写真のように鮮明のに覚えることができる能力が、役立つことを知ります。1度見た客は忘れない水商売の方でさえ、記憶に残らない地味な印象が功をなすことも知ります。人と接触して情報を聞き出すことを不得手としているために、地道に過去ニュースや膨大なデータから手がかりをつかめる能力を発揮して真相を解明していきます。

結末はある程度謎が解明されますが、犯人が逮捕されるわけでも事件を未然に防げたといった達成感はありません。地味な結末で、魚の骨が喉に刺さったようでした。壮太の立場は、同僚の穂希に比べると冴えないままで、やっぱりすっきりしません。

こういう影に徹する生き方をしている人が日本のどこかにいるのでしょう。すっきりしないながらも、国を守り続けるこうした組織はなくてはならないと納得はしました。

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