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親子関係をテーマにしたミステリー

子供にとって親は全てだ

ミステリー、サスペンス、推理ものは、テレビでも人気番組です。んんん・・・?この3つ言葉が違いってなんだっけ・・・か。ただ親子関係をテーマにしたミステリは、そう多くは取り上げられていません。最近の番組で『ミステリーというなかれ』では、虐待された子供が自宅の放火を依頼する事件がありましたが、それくらいしか思いつきません。

現実では虐待や親殺しの事件は、頻繁に起きています。毒親、ネグレクト、依存症、家庭内暴力の悩みについても、昨今、雑誌やSNS上でよく話題になっています。当サイトで昔、母親との関係を書いた書籍を紹介しましたが、こうした家庭という密室の中の出来事を多くの人が口にするようになっています。

例え毒親であっても子供は逃れられず、学校に上がるまでは親と過ごす環境が全てです。親は子供の全世界。親は子供を捨てられるけど、子供が親を捨てるには経済的な自立がなければ無理というのも不条理さを感じます。

道の駅で車中泊する車

朝と夕の犯罪

降田天の『朝と夕の犯罪』は、親子関係をテーマにしたミステリーです。冒頭に住む家がなく車の中で寝泊まりし、サービスエリア(道の駅)に駐車して、夜を明かす父親と兄弟の姿が描かれています。同じ場所に居続ければ好奇の目にさらされるので、常に車で移動しながらの暮らしです。学校も行かず、その日暮らしの生活です。

レストランのステックシュガーを大量にかっさらいおやつにし、自販機の釣銭ポケットの中に小銭がないか探ります。道の駅の水道で顔や体を洗い、たまに銭湯へいきいっきに汚れを落とすのです。子供は排水溝に向かう自分の汚れが、恥ずかしいとつぶやきます。

車生活を営む父親の口癖は、「3H」 健康(health)、幸せ(happiness)、愛情(heart)。もうひとつ加えるべきは家(home)だと、子供は考えます。当たり前のことが、当たり前でない子供もいるんですね。

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こんな生活が長続きしないで、兄弟はやがて別々の道を歩みます。兄は父親の元妻の家庭に引き取られ、弟は施設で暮らすことになるのです。兄が大学生活を送り始めたころ、ばったりと交差点で弟に再開をします。

再び、引きずり込まれる怪しい世界。どうか、このままでと願いながらも、何かが起きる物語の流れに、ハラハラしながら目が文字を猛スピードで追います。

努力しても普通になれない

兄は弟に誘われ誘拐を決心した時、努力しても結局『普通』になれなかった自分を受け入れなければと考えるのです。弟と自分は、根っこはずっと同じ場所にいると、かつて車中泊をし続けた暮らしから逃れられないと覚悟するのです。こんなことを思う子供がいるって、胸が締め付けられそうです。

兄弟は念入りに練り込まれた誘拐を実行し、どこにもない完全犯罪を犯したかのように見えました。しかし、『偽りの春』で登場した、交番勤務の狩野雷太による推理で事件の真相が判明していきます。『偽りの春』と著者は同じですが、まさかこの本が狩野雷太シリーズの中のひとつだったと物語の終盤で気がつく私です。

何故、誘拐なのかをここで書くことはネタバレになりますのでしません。ただ、兄弟を含め犯罪にかかわったすべての人は、みんな必死に生きているのです。与えられた環境の中で、出口を見つけることができず、ジタバタした結果悪い方向へ進んでしまう流れです。何もしなくても地獄、出口からでようとしても地獄といった救いようのないものを感じました。

そうそう、虐待をしていた親も必死で生きていたし、車中泊を子供にさせる父親でさえ自分の弱さに苦しんでいました。

親子関係に出口はない

現実、どこにも救いを求められない子供は多くいるに違いありません。自分の境遇が悲惨であることすら認識できないで、虐待する親を慕う子供もニュースで知っています。親は子供にとって全てですから。

この本は改めて、地獄の中をさまよう子供たちへの救済策を、試案するべきと考えさせられました。

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