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北斎とジャポニズムを見てきたよ

印象派の画家が受けた刺激から北斎の天才を知ったよ

昨年より行きたくてしょうがなかった『北斎とジャポニズム』を、1月18日に見てきました。この日は、林綾野さんの『北斎をめぐる江戸の食卓』の公演も開催されていて、こちらも聴講してきました。

NHKでも何度か北斎の特集番組が組まれて、北斎自身だけでなく、北斎の娘である葛飾応為(かつしか おうい)に光が当たっていましたね。他のインターネット動画番組でも、北斎の特集が組まれていました。 何故か今、北斎は熱いようです。 お相撲さんと踊り子たち

平面の浮世絵にあって、西洋の画風になかったもの

チケットは当日、国立西洋美術館にて難なく購入しましたが、入場制限されていて30分待ちとなっていました。1回に10人ぐらいづつしか入れてもらえません。

中に入ると眼鏡を忘れたのをひどく後悔します。西洋の絵は大きいのに、北斎の絵は北斎漫画と言って、雑誌大のスケッチブックに書かれたものを展示していましたので、かなり小さいのです。周囲の迷惑も顧みずに、北斎画に顔を近づけて1点1点見ていきました。

550円で音声ガイドも借りましたものの、全ての説明文を読み上げてくれるわけではありません。音声ガイドは、バックに効果音が入り興味深い話が入れられていました。しかし、550円もとるのだから全ての説明文の音声を、入れてもらうわけにはいかないのでしょうか?

やっぱり浮世絵は今も昔も大衆絵画なのだ

集まっている方は、私より年上ご年配の女性が目立ちます。特に2人連れの方が多く、今も昔も大衆に受け入れられている画家だと言いきれるでしょう。10代の方もおりました。学校で課題があったのか、みな同じガイド集を持ってメモを取りながら見ています。

今回の北斎展のテーマは、『北斎が名だたる西洋の画家に、どのように影響を与えたのか』を知ることです。西洋の画家がインスピレーションを得た北斎の絵と、西洋の画家の絵が横に並べられて対比しながら、何に刺激を受けたのかを知ります。

上記の写真のように、相撲取りが腰に手を当てる姿と、ドガの踊り子の絵のように分かりやすいものばかりではありません。時には人物のポーズの取り方であり、構図であったりするだけでなく、北斎がいる私達日本文化に流れる思想までも探り当てて、作品の中に取り入れようとしています。

その貪欲な探究心に、北斎の天才を承知していたことが分かりますし、西洋の画家の追い詰められた心情もうかがえるのです。

印象派の画家のマンネリ

それでも。陰影や遠近法など立体的に描く技法を身につけた西洋の画家が、わざわざ平面的で色の少ない浮世絵に、何故惹かれていったのか疑問が残ります。

当時の西洋の印象派と呼ばれる画家達、例えばマネ、ドガ、モネ等は、それまでの伝統的な表現法に対してマンネリ化していたようです。新しい表現方法に、飢えていたのということなのでしょう。

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北斎の絵には陰影はないけど、影を感じる何かがあったし、リズムが感じられます。遠近法はないけど、大胆な構図やアンシンメトリー(非対称)な構図が無限の広がりを感じさせるのです。

ハレの日とケの日の違いのように感じた

私が考える印象画と浮世絵の違いは、印象画は高い芸術志向の人に向けて書かれているのに対し、浮世絵は大衆向けのメディアだったことです。浮世絵が、何枚も同じものが刷れる版画として大量生産できることから、印象派の絵画より遥かに安く買うことができました。

多くの庶民が購入するために、庶民を喜ばせる必要があったのです。西洋の画家は、模倣を嫌がりましたが、浮世絵師の画風はお互い参考にしあい、切磋琢磨をしていました。 お相撲さんと踊り子たち

描かれている光景は、その時代の暮らしぶりや、風俗、流行などを取り入れた、普通の暮らしです。時には男女の性を扱った春画も、こうした状況であればうなずけます。

一方、印象派の絵画はどちらかというと、ハレの日用の素材が描かれています。植物は切り取られ花瓶に活けられたもの、人物画は正装してきれいな姿勢で描かれたものが多くなります。

印象画の画家たちは、北斎が描く植物を見て、そこに生命を感じたと言います。花瓶に活けられた花は、やがて来る死を待つばかりですが、自然に生息する植物の生命は続いていくからです。展示会で植物をテーマにしたブースでは、構図も画風も似ているとは思えませんでしたが、確かに北斎に影響を受けて描かれた植物に生を感じました。

メアリー・カサットは、広いお屋敷のソファーで足を広げて座る行儀の悪い少女を描いています。西洋ではこうした怠惰な絵画は、描かれませんでした。北斎のふっくらした男性が、大きな荷物を背もたれにして寝そべる絵を参考にしているのです。

北斎漫画は、日本国内の他の浮世絵師も育てた

林綾野さんは『北斎をめぐる江戸の食卓』の中で、北斎漫画は西洋の画家に影響を与えただけではなく、日本国内の他の浮世絵師も育てたといいます。私達が生活する3次元の世界を、2次元の絵画に映し出すことは、若手の絵師にとっては困難でした。葛飾北斎が絵手本として発行した北斎漫画(スケッチ画集)を、若手の絵師が参考にしたのです。

スクリーンに大きく、『冨嶽三十六景 駿州江尻』が映し出され、こんなに大きく引き伸ばしても見られるのは、凄いことだと言います。ディテールまでしっかりと、描かれているためです。風をテーマにしている絵で、紙が空中に舞い、蓑カサが飛ばされています。吹き飛ばされないように踏ん張って腰をおろしている人物像などが、強風を連想させます。

陰影のない絵でありながら、風を感じさせる、また風以外でも情景を写し取る高い技術が北斎にはあったのです。

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