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犯罪者に乗り移られたかと思ったよ

ミステリーの新しい楽しみ方を見っけ

動機とアリバイ・トリックがミステリーの醍醐味と考えていましたが、別のミステリーの楽しみ方を見つけた本があります。

例えば。。。

風呂敷を背にした泥棒

ストリーの大部分は捜査側の目線

通常の刑事ドラマはこうです。

いきなり殺人が起きて、数分後には容疑者が絞られます。凄腕刑事が足しげく容疑者のもとに通い、言葉巧みに接触し続けます。ある時解決のヒントを思いつき、容疑者逮捕にこぎつけるというのがテレビのお決まりです。『古畑任三郎』や『刑事コロンボ』、『相棒』などがその典型ですね。

犯罪者の心理描写は、殺人時と最終局面で容疑者自身が語る動機で知ることができます。時には涙したりして。ストリーの大半は、捜査側の目線で展開されています。刑事同士が語る事件関係者の人間模様は、第3者目線で見ている方は感情移入をしません。なるほどそういうことで犯罪につながるのかと納得はしますが、いささか他人事です。

そうそう。まるで週刊誌のゴシップの一部が切り取られて、詳細に映像になった感覚です。終盤によくあるパターンで、犯罪がばれて焦った犯人が口封じのために、ドラマの中での良い人が殺されかける時は、さすがにドキドキ・ハラハラはします。

犯罪者目線で終始繰り広げられる

ところが、まるで自分がその犯行現場にいるような緊迫感、警察の尋問を受けている時のような、冷や汗がでる気分になる本に出合いました。もしかしたら、私、犯罪者になってしまったような、犯罪者にのり移られたような感じです。

『偽りの春』は、2018年に第71回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞しています。降田天という著作名ですが、実際は執筆担当の鮎川颯(あゆかわそう)と、プロット担当の萩野瑛(はぎのえい)による作家のユニット。

5つの短編から構成されていて、事件で犯罪者になった経緯や、生い立ち、家族構成を、犯罪者本人が語っています。警察が後から、補足的に説明するシーンもあります。こうした犯罪心理が、犯罪者の人物像をくっきりと浮かび上がらせています。犯罪者のことを良く知ったからでしょうか?捕まらなければいいのにとか、事件後幸せになればいいのにとついつい思ってしまうから不思議なのです。

5つの短編に共通している犯罪者は、人間味のある憎めないキャラクターに設定されていることです。

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5つの短編の事件を解明するのは、神倉駅前交番勤務、狩野雷太で魅力的な人物像として描かれています。のらりくらりと世間話をしながら、確信に迫り犯人を緊張させたり、とぼけて油断させたりと、捜査手腕も抜群です。ですが、狩野雷太はそう強く印象に残らないのが率直なところです。

事件そのものが衝撃的で、斬新だからでしょうかね。

悪い男にあこがれて泥棒なった

『偽りの春』の中で、気に入ったのは『名前のない薔薇』。

主人公は好意を寄せる看護師に、自分は泥棒だから付き合えないと正直に告げます。看護師はもし本当に泥棒であるなら、よその家の薔薇を盗んで証明してほしいと頼むのです。

主人公が泥棒になったきっかけは、なんと子供のころから洋画が好きで格好いい男に対する憧れが人一倍強く、悪い男に憧れたことが理由の一つと語っています。看護師に交際を断った時は、逮捕歴も何回かあり、いまさら普通の仕事はできないと半ば諦めていた時です。

主人公が盗んだ薔薇を看護師は、自分が品種改良したものとして農林水産省に申請登録をしていました。看護師は美人園芸家としてメディアにもてはされ、いちやく一躍時の人となります。看護師をやめ、うって変わった贅沢な暮らしになります。このことが、主人公を悔やませるのです。

元々、薔薇の品種改良の才能があったわけでないため、次の新種が作れずに悩んでいる時期に、二人は再開します。再び、別の薔薇を盗んでほしいと依頼するのです。

泥棒の主人公が、泥棒を自分に指示した看護師の罪を悩むというところがすっごく気に入りました。恰好がいいから泥棒になったけど、薔薇を盗んだ看護師の苦しそうな姿に心が痛む、複雑な心理があります。ついに看護師にとってこれは幸せな状態ではないと判断し、泥棒は苦肉の策にでました。

交番勤務、狩野雷太も話の最終局面で登場します。看護師は話のほころびを追及され、交番に連れていかれますが、容疑が晴れて事なきを得ます。主人公は薔薇を盗まなかったのです。

結末は、心がほっこりと温かくなりました。これはミステリーなのかと疑問に思い、ヒューマンドラマみたいだけどそれほど大げさなものでもありません。不意打ちをくらわされるストーリーに、やっぱりミステリーなのかと思い治すのです。

余談ですが

テレビドラマで、最終話を残すのみとなったミステリー番組『最愛』と、『真犯人フラグ』に夢中です。ここまで、記事を書き進めて、このドラマに夢中になれる理由は、紹介した本と同じ犯人目線にならざるを得ない局面が多いからに違いないと考えました。

うむ。これからのミステリーは、奇想天外になっていくに違いありませんね。

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