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銀行を舞台にした企業ドラマだが、リアル感がすごい

いつまで続くぬかるみぞ

2015年に出された『抗争 巨大銀行が溶解した日』は、企業幹部の派閥争いのドラマを、銀行を舞台にして書かれています。モデルは、名前こそ違えていますが、みずほ銀行です。ビルに入る大勢のサラリーマン

2000年に、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が、みずほホールディングスの子会社となり、2002年にはこの3行が合併してみずほ銀行と名前を改めました。

この合併の面白いところは、3行のいずれも同じ力を持ったままで行われたことです。人事もバランス良くと配慮されていたことから、一つの頭を持ち体が3つあるような状態だったことが、いつまでも多くの問題を引きずったのです。

吸収合併であれば、『出身銀行ごとの派閥も少しは和らげられたかも?』といったことが、書かれています。くっきり、3行が分かれて、コミュニケーションも疎遠になります。しかし、『抗争』では派閥争いは際限なく続くと、締めくくられているのです。なんとも、やりきれない話です。

話のネタが尽きないみずほ銀行を活用している

ところで、2002年4月1日のみずほ銀行の営業初日に、3行の一本化されたシステムが大規模な障害を起こしましたね。新聞で連日、ATMの前できた長蛇の列を報道し、その列に並んだ方の愚痴も絶えませんでした。『あなたも?』『私も、実は・・・』などという会話は、至る所に蔓延していました。

営業初日と同時に、システムトラブルが起きるなんて、そりゃボロボロってことですよ。 口座振替の遅延は4月1日だけで105,000件、日を追うごとにその数が膨れ上がり、4月5日には250万件になります。口座名義人違いの振り込み件数や、二重引き落としなども発覚し、混乱は約1カ月以上続いて社会問題となりました。

このシステム障害への対応は、その後、何年も続いたと聞いています。

さらに2011年に起きた、東日本大震災の義援金でもシステムトラブルを起こし、総合振込、給与振込、口座振込の遅延が発生し、その対応に追加80億円の費用がかかったと言われています。原因は義援金が、特定の口座に大量に振込が集中したことからです。

義援金システムトラブルの責任をとった八神の辞任から始まる

『抗争』は、この東日本大震災の義援金システムトラブル後、記者会見現場から始まります。もともと統合時から、問題の多かったシステムを修正したものの、欠陥を全て塞ぎ切れなかったと、八神の部下が愚痴ります。

問題だったシステムは、旧太陽産業銀行(現実には第一勧銀でしょうか?)のものでしたが、システムトラブルの対応にあたったのは、扶桑銀行出身頭取の八神です。散々苦労してシステムトラブルを収めたものの、八神は社内の派閥争い破れて、頭取の辞任に追い込まれるのです。これは、心中穏やかではありません。

3行の経営幹部の人物像を明らかにさせながら、物語を展開させていきます。ミズナミファイナンシャルグループ、ミズナミコーポレート銀行、ミズナミ銀行と、みずほファイナンシャルグループとなぞらえているのも分かりやすいですね。現実と照らし合わせれば、みずほホールディングス、みずほコーポレート銀行、みずほ銀行となりましょうか?

この3つの組織を、全て掌握しようと策略を企てる藤沼と、腰ぎんちゃくのような大塚も、企業の派閥争いに良く見られる光景です。

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両者に辞任へと、落とし込められた八神の苛立ちで、読んでいる私を圧倒します。『これは、ドロドロしていてかなわないな』と思うや否や、場面が殺人、詐欺とパタパタと移り変わり、軽快に読み進めていけるのです。

企業ドラマはあまり読まないのですが、これは面白いって、時間を忘れてページをめくっていきました。

反社会的勢力と癒着から殺人と詐欺事件が起きる

ところで、また現実。1997年に第一勧業銀行は、総会屋へ460億円の利益供与事件を起こしています。頭取経験者11人の逮捕や、元会長の自殺にまで事態は引き起こしました。この事件をきっかけに、高杉良の『金融腐蝕列島』が注目を集め、映画化もされています。

抗争は2013年が舞台となっていますが、ミズナミ銀行は総会屋との関係が切れていないことが、一連の事件の原因です。

消費者ローンのパシフィコ・クレジットは、ミズナミ銀行から融資を受けて、与信判断、債権管理、信用保証の業務を行っています。法律上はミズナミ銀行の債権です。ミズナミ銀行は個人ローンという高金利資産を増やし、パシフィコ・クレジットは銀行の借入金を増やさず保証料を手に入れられます。ウィンウィンの関係です。

ミズナミ銀行がパシフィコ・クレジットにお金を貸しているのではなく、個々のお客が債権者です。パシフィコ・クレジットは、保証人という立場になります。債権者が支払いできない時に、パシフィコ・クレジットがミズナミ銀行にお金を、支払うことになります。この仕組みは、本の中では金融庁も容認していると書かれていました。

この仕組みをもってすれば、ローンの中に反社会的勢力な方が入っても、銀行は丸投げしているために、シラを切ることができるのです。明確になれば、コンプライアンス違反となります。銀行も美味しい汁を吸っている以上、コンプライアンスを厳しくしたくないというのが本音です。

このコンプライアンスチェックを、行っている担当者が殺されました。担当者は、扶桑銀行出身で、またもや割の合わない話となり、八神の怒りに火をつけます。

銀行の融資を審査する審査役も、反社会的勢力の餌食になりやすいのです。融資先の会社を紹介する会社が、反社会的な組織を紹介します。世間に知られないまま暴力団と関係したビジネスの橋渡しをする人を、企業舎弟としいます。

企業舎弟が、うまく銀行の審査担当者とつながれば、銀行は反射取引を追求されることなく、甘い汁を吸うことができます。今回の詐欺事件の鍵は、この辺にあります。

殺人と詐欺事件の裏側にある、銀行の闇の部分が明らかになるにつれ、エリートだと思っていた銀行員のメッキがはがれるのを感じました。なるほど。。。

この2つの事件を利用して、冒頭で出場した八神が、社内での巻き返しを図ります。マスコミを利用して、同じ出身銀行である扶桑銀行の行員とタックを組んで、策略が巡らされていきます。

現実のみずほ銀行でも、もしかしたら、こんなことも行われていたのかしらと、頭に巡らせます。 とにかく、ページをめくる指は早かったですよ。

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